朝ごはんが食べられない小学生は珍しくない?――科学とデータで理解する理由と家庭でできる対応

「朝ごはんがなかなか進まない…」
「無理に食べさせた方がいいのか分からない」
「食べられないのは、うちの子だけ? 私の関わり方が悪い?」
これは、これまで聞いてきたお母さんの声です。 朝の忙しい時間、食卓の前で子どもが箸を止めたまま動かない姿を見ると、不安や焦りが頭をよぎることは、母としてとても共感できるものです。

朝ごはんが食べられない悩みは“個別性”と“理論”で捉える
「朝ごはんをまったく食べてくれない」「食べられるようになってほしいけれど、どうしたらいい?」
こうした悩みは保護者だけでなく、幼稚園・保育園・学校関係者、さらには子どもの健康支援に関わる企業の人事・福利厚生担当者のかたも気にしている問題のようです。
朝ごはんを食べられない子は、実際どれくらいいる?
日本の調査では、週に1回以上朝食を抜く子どもが約13%いることが報告されています(Yaguchi-Tanaka & Tabuchi, 2024)。
これは「朝ごはんを食べられない」という行動が、決して個別の問題ではなく、一定数を占める現象であることを示しています。
また、国内・海外の調査では、朝食をとらない、あるいは量が極めて少ない子どもを含めると、2〜3割が課題を抱えているケースがあるという傾向も報告されています。
つまり、
朝ごはんが苦手な子どもは、特別な存在ではない
ということが、研究からも裏付けられています
朝ごはんが進まない要因の一つは?――生理学と自律神経の視点
朝は、身体にとって最も大きな「切り替え」が必要な時間帯です。
子どもは大人に比べて、
- 自律神経の切り替えが未熟
- 睡眠の影響を受けやすい
- 胃腸の動きが立ち上がるまでに時間がかかる
という特徴があります。
そのため、起きてすぐの身体は
- 空腹感を感じにくい
- 口に物を入れること自体がつらい
- 噛む動作が大きな負担になる
という状態になりやすい可能性があります。
これは「やる気の問題」ではなく、身体の準備がまだ整っていない状態。 発達や体質の個人差によるもので、親の対応の良し悪しとは切り離して考える必要があります。
早く起こして、朝ごはんまでの時間をとればいいの?
朝ごはんまでどれくらい時間をあければいいの?
こんな疑問が湧いてくるかもしれませんね。
起床後何分が「食べやすい時間」かを示す生理学的指標(例:30分後に胃腸が活発になる)は、科学的に確立されたものとして発表されていないようですが、
胃腸の動きや自律神経の切り替えが十分に進むにはある程度の時間経過が必要であることが、生理学的にも示唆されています。実際、朝食を抜いた期間が続くと朝の胃腸の機能が弱まる傾向があるという報告もあります。こうした視点から、起床後すぐよりも少し時間を置いた方が食べやすくなる可能性があると考えられます。
とはいえ、睡眠時間も確保したい、朝は忙しい。
そういった中で、朝ごはんまでの時間を1時間以上あけるのはとても難しいものだと、母としても感じます。
でもまずは、
朝ごはんが進まない要因の一つに、子どもの身体のしくみがある。個人差が大きいという認識を持っておくということが大事なのかもしれませんね。
「噛むと脳が目覚める」は本当?――研究から分かっていること
「よく噛むと脳が活性化する」「噛むことで脳の血流が増える」 そんな話を聞いたことがある方も多いと思います。
実際、咀嚼(そしゃく)刺激が脳の覚醒や血流増加と関連することは、脳科学・生理学の分野で報告されているようです。 噛むことで感覚刺激が脳に伝わり、覚醒レベルが上がる可能性は確かにあります。
ただし、ここでとても大切な前提があります。
それは、
「噛める状態(心と体が)にあること」が前提である
という点です。
朝、身体がまだ目覚めきっていない子どもにとって、 「しっかり噛む」こと自体が負担になる場合も少なくありません。
その状態で無理に噛むことを求めると、
- 食事=苦痛
- 朝ごはん=嫌な時間
というイメージが強く残ってしまうこともあります。それは一番避けたい問題です。
柔らかい朝ごはんは「妥協」ではなく「戦略」
「噛まなくていいものばかりで大丈夫?」 「ちゃんとした朝ごはんじゃない気がする…」
そう感じるお母さんも多いですが、 朝に食欲が出にくい子どもにとって、柔らかい朝ごはんは理にかなった選択です。
重要なのは、
「どんな内容か」よりも
「何かしら口にできたか」
という視点です。
「今日はこれが食べられた」 その積み重ねが、将来的に噛める朝ごはんへとつながっていきます。
朝におすすめの「やさしい朝ごはん」例
- 温かい味噌汁・スープ
- 雑炊・おかゆ
- ヨーグルト
- 柔らかいパン
- バナナやすりおろし果物

朝食は「心」にも関係している
世界42か国・約15万人の子どもを対象にした研究では、 朝食を毎日食べている子どもほど、生活満足度が高い傾向があることが報告されています。
これは、「朝食を食べないと不幸になる」という意味ではありませんし、その日に食べなかったから、子どもの心に何か影響があるということでもありません。
朝食は、
- 生活リズム
- 一日の始まりの安心感
- 家庭での関わり
といった、心の土台とも関係している可能性が示唆されている、ということです。
無理やり食べさせるよりも、 「少しでも食べられたね」 「今日はスープだけでOKだよ」
そんな関わりの方が、結果的に子どもの安心感につながることも多いのです。
親子のコミュニケーションの一つでもありますよね。
心配しすぎなくていいケース・相談を考えたいケース
多くの場合、朝ごはんが少ない・食べられないこと自体は大きな問題ではありません。
ただし、
- ほぼ毎日まったく食べられない
- 体重が増えない、または減っている
- 日中の元気が明らかにない
といった場合は、医療機関での相談も一つの選択です。
「悩みすぎず、でも気づいてあげる」 そのバランスがよさそうです。
朝ごはんは、しつけの時間ではなく、身体と心を起こすための時間。
その子のリズムに合わせて、 「今できる形」を選んでいくことが、 長い目で見た食べる力を育てていきます。
まずは、スープから。お子さまが「たべられそう」というものから続けてみてくださいね。



執筆者:石井 千賀子(いしい ちかこ)
薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、昭和医科大学、調剤薬局に勤務。医療現場での経験と、子育てを通じて得た実感をもとに、食と生活習慣が子どもの学びや心身の土台をつくることに着目。現在は食育スクール運営のほか、科学的根拠に基づきながら医療・教育・食を横断する立場から保護者に寄り添うコラム執筆やセミナーを行っている。