子どもに日本の行事をどう伝える?

食育の視点で考える、家庭でできる伝統文化の学び
子どもに日本の行事や伝統をどう伝えればいい?今回は家庭で無理なくできる行事の伝え方と、絵本を活用した文化教育の実践のおすすめを紹介します。
子どもに伝統行事を伝えることの難しさ
「ねえ、これ知ってる?」
ある日、息子が紙を切ったり貼ったりしながら、獅子舞のようなものを作っていました。
その自由な発想に驚きながらも、私はふと立ち止まりました。
――獅子舞って、どうしてあるんだっけ?
――私は、この意味をちゃんと説明できるかな?
日本の伝統行事は、私たちの暮らしの中に当たり前のように存在しています。
お正月、節分、七五三。毎年やっているし、何となく知っているつもりでいる。
けれど、「なぜその行事をするのか」「何を大切にしてきた文化なのか」を言葉にしようとすると、案外あやふやだったりします。
私は食育の仕事をしていますが、日々強く感じていることがあります。
それは、「知っていること」と「伝えられること」は違うということです。
知識として知っていても、子どもに届く形で伝えられているかは別問題。
そして、伝えようと力を入れすぎるほど、かえって遠ざかってしまうこともあります。
なぜ絵本は、子どもに日本の行事を伝えるのに向いているのか
今は、インターネットで調べれば行事の意味はいくらでも出てきます。
けれど、子どもと一緒に見るには、
情報が多すぎたり、説明が難しすぎたりすることも少なくありません。
そんなときに助けられてきたのが、行事を扱った絵本です。

絵本は「教える道具」だけではなく、一緒にページをめくり、同じ絵を見て、同じ場面を感じることができるツールです。
その中で、
「これなに?」
「どうしてこの日にやるの?」
という問いが、子どもから自然に生まれます。
親が完璧に答えられなくてもいい。
「なんでだろうね」と一緒に考える時間こそが、学びの入口なのかもしれません。
この余白があることが、絵本が伝統行事を理解化するに向いている理由だと感じています。
『和の行事えほん 』が家庭の食育でオススメな理由
数ある行事絵本の中でも、私が繰り返し手に取ってきたのが


『「和」の行事えほん』髙野 紀子(あすなろ書房)です。
https://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751523926
春夏の巻・秋冬の巻があります。
この絵本の魅力は、
行事が点ではなく、線として描かれているところです。
とても優しい絵のタッチがこころもなんだか穏やかにしてくれます。
また、行事とともに描かれるのが、人の暮らしと食の風景です。
飾りつけ、家族の様子、食卓の場面。
その一つひとつが、「行事は生活の一部」ということを静かに伝えてくれます。
だからこそ、この絵本は家庭での食育ととても相性がいいのです。
行事食は「食育」と「文化教育」を同時に育てる
行事食というと、「特別なことをしなければ」と身構えてしまう方もいるかもしれません。
でも、私はいつもお伝えしています。
全部やらなくていいと。
たとえばお正月。
おせち料理には、それぞれ意味があります。
黒豆は、まめに働き、元気に過ごせるように。
栗きんとんは、豊かさを願って。
ごぼうは、地に足をつけて生きていけるように。
この話を、長々と説明する必要はありません。
食卓で一言添えるだけでいいのです。
「これね、元気でいられるように、って意味があるんだよ」
それだけで、食事は「食べるだけの時間」から、
文化や願いを感じる時間に変わります。
食は、五感すべてを使う学びの教材です。
そこに行事という文化が重なることで、
国語・社会・理科、そして感性へと、自然につながっていきます。
家庭でできる、無理をしない伝統行事の取り入れ方
伝統行事を伝えることは、何かを完璧に再現することではなく、
忙しい日々の中で、できる形で関わることが大切だと感じています。
・行事の前に、絵本を一緒に読む
・一品だけ行事食を取り入れる
・「今日はこういう日なんだよ」と話す
それだけでも十分です。
できる年もあれば、できない年があっていい。
その柔らかさが、家庭で続けていくためには必要だと思います。
子どもの学びは、日常の中で静かに育っていく
この絵本を通して、私自身も改めて気づかされることがあります。
行事を知ることは、「正しくやるため」ではなく、
暮らしを見つめ直すためなのかもしれない、ということ。
大人が立ち止まり、面白いと感じること。
その姿勢そのものが、子どもに伝わっていきます。
『「和」の行事えほん 秋と冬の巻』は、
家庭の本棚に一冊あるだけで、
季節の会話を生み、暮らしの中に問いを置いてくれる本です。
子どもに日本の行事をどう伝えるか。
その答えは、特別な方法ではなく、
日常の中に静かにあるのかもしれませんね。
行事食については、小学館子育てWEBサイト「HugKum」にて連載。1月の「七草」のアレンジレシピも掲載中。
https://hugkum.sho.jp/438905

執筆者:石井 千賀子(いしい ちかこ)
薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、昭和医科大学、調剤薬局に勤務。医療現場での経験と、子育てを通じて得た実感をもとに、食と生活習慣が子どもの学びや心身の土台をつくることに着目。現在は食育スクール運営のほか、科学的根拠に基づきながら医療・教育・食を横断する立場から保護者に寄り添うコラム執筆やセミナーを行っている。