「自分に、仕事になるような強みなんてないんです」

体験講座に来てくださる方から、
そんな言葉を聞くことがあります。

でも私は、
そう話す方ほど、
実はたくさんの経験を積み重ねてきた人なのではないかと感じています。

先日、ある女性のお話を伺いました。

その方は、
大きなサポートが必要なお子さんを育てながら、
仕事も続けてこられた方でした。

お子さんは、お話をすることが難しいそうです。

「今はただただかわいいだけなんです」

と笑顔でおっしゃっていましたが、
きっとここまでの道のりは、
そんな一言では語れないものだったと思います。

眠れない夜もあったはず。

不安な日も、
孤独を感じる瞬間も、
たくさんあったはずです。

薬剤師として、
私は学生時代から、
重度障害児の施設や、
医療・福祉の現場に触れる機会がありました。

だからこそ、
障害のあるお子さんを育てながら働くことが、
どれほど簡単ではないかも、
少しだけ知っています。

そんな中で、
その方が何度も口にされていた言葉がありました。

「地域に支えてもらってきたんです」

福祉。

教育。

地域の人たち。

周囲の理解。

さまざまな支えがあったから、
仕事を続けながら子育てをしてこられた。

「本当に感謝しかないんです」

そう話されていた姿が、
とても印象的でした。

「支えてもらった経験」が、人を支える力になる

私自身も子育てをする中で、
児童館や地域の助産師さん、
医療や行政サービスに助けられてきました。

でも正直、
そこまで深く

「地域のおかげで」

と考えたことはありませんでした。

だからこそ、
その方の言葉は、
私の中に深く残ったのだと思います。

そしてさらに心を打たれたのは、
その先にあった想いでした。

「今度は、自分が地域に返していけたら」

「子どもたちや、子育て中のお母さんたちに、何かできたら」

静かな言葉でした。

でも、とても芯のある言葉でした。

私は、
食育の仕事には、
こういう「循環」があると思っています。

支えられた経験。

悩みながら子育てしてきた日々。

仕事と家庭の両立に迷ったこと。

うまくいかなかった経験。

全部が、誰かに寄り添う力になっていく。

だから私は、
「食育を仕事にしたい」という方に、
特別な経歴や資格だけを求めているわけではありません。

むしろ、

誰かを思って悩んだことがある

子育てに迷ったことがある

支えてもらった記憶がある

そんな経験こそ、
子どもや保護者と関わる現場では、
大きな力になると感じています。

食育は、「料理を教える仕事」では終わらない

その方は、
子どもの食育について学びながら、
今では米粉パン作りにも精力的に取り組まれています。

そして、
ついには米粉パン教室を開くまでに。

これから先、親子向けになるのか、お母さん向けになるのか。

どんな形になっていくのか、私もとても楽しみにしています。

でもきっと、そこにはその方の人生そのものが反映されていくのだと思います。

これまでの仕事。

子育て。

悩み。

経験。

支えられた記憶。

全部が線でつながって、「その人にしかできない教室」になっていく。

食育の仕事って、そういうものだと思うのです。

ただ料理を教えるだけではありません。

子どもの「できた!」を支える。

保護者の不安に寄り添う。

挑戦する気持ちを育てる。

そして、
子ども自身が、「自分でできた」という感覚を積み重ねていく。

その経験は、自己肯定感や主体性、非認知能力につながっていきます。

だから私は、食育は、子どもの未来に関わる仕事だと思っています。

「私にもできるかもしれない」

もし今、

自分には何もない

誰かに提供できるものなんて分からない

好きだけでは仕事にならない気がする

そう感じているなら。

それは、
何かを一生懸命生きてきた証でもあるのかもしれません。

そして、
あなたが当たり前だと思っている経験は、
実は誰かにとって、
大きな価値になることがあります。

だからこそ、まずは外に出てみてほしいのです。

誰かと話してみる。

現場を見てみる。

子どもたちと関わってみる。

食育の現場には、
写真や文章だけでは伝わらない空気があります。

子どもたちの表情。

保護者との信頼関係。

先生たちの声かけ。

「できた!」の瞬間。

まずはぜひ、
体験講座でその空気感を感じてみてください。

食育は、
誰かの役に立てる実感が、とても大きい仕事です。

そして同時に、
自分自身の人生も、
少しずつ豊かにしてくれる仕事だと、私は感じています。

執筆者:石井 千賀子(いしい ちかこ)

薬剤師。昭和大学薬学部卒業後、昭和医科大学、調剤薬局に勤務。医療現場での経験と、子育てを通じて得た実感をもとに、食と生活習慣が子どもの学びや心身の土台をつくることに着目。現在は食育スクール運営のほか、科学的根拠に基づきながら医療・教育・食を横断する立場から保護者に寄り添うコラム執筆やセミナーを行っている。