子どもの好き嫌いは直すべき?薬剤師・食育実践家が考える「食べる力」の育て方

「うちの子、本当に好き嫌いが多くて……。」
食育スクールや食育講座で、保護者の方から最も多くいただく相談の一つです。
ピーマンを見るだけで首を振る。
トマトは口に入れてもすぐに出してしまう。
魚は匂いが嫌だと言って食べない。
毎日食事を作る立場からすると、「せっかく作ったのに」「栄養が足りなくなるのでは」と心配になりますよね。
私自身も二人の子どもを育てる母として、その気持ちはよく分かります。
そして、薬剤師として身体の仕組みを学び、多くの親子と関わる中で、一つ強く感じるようになったことがあります。
それは、
「好き嫌いは、必ずしも直さなければいけないものではない」
ということです。
もちろん、食べられる食品が増えることは素晴らしいことです。
しかし、本当に大切なのは「嫌いなものを食べさせること」ではなく、「食べることを嫌いにしないこと」ではないでしょうか。
子どもが苦味を嫌うのは「わがまま」ではありません
「どうしてピーマンだけ食べないの?」
そう思ったことはありませんか。
実は、子どもの味覚は大人よりも敏感です。
特に苦味は「毒」、酸味は「腐敗」を知らせるサインとして感じやすいことが分かっています。
これは、人間が長い進化の中で身につけた「身体を守る仕組み」です。
つまり、
「苦いから嫌。」
という反応は、子どもにとって自然なことでもあります。
大人になるにつれて経験を重ね、「これは安全な食べ物なんだ」と学習することで、少しずつ食べられるようになる人も少なくありません。
だから私は、最初から「食べなさい」と伝えるよりも、
「苦く感じるよね。」
「初めての味はドキドキするよね。」
と、子どもの感じ方を受け止めることを大切にしています。
受け止めてもらえると、子どもは安心します。
安心すると、「もう一回挑戦してみようかな」という気持ちが生まれやすくなるのです。
「偏食=栄養不足」とは限らない
保護者の方がもう一つ心配されるのが、
「このままでは栄養が足りないのでは?」
ということです。
確かに、極端な偏食が続く場合には注意が必要です。
しかし、「トマトを食べない」「ピーマンを食べない」という理由だけで、すぐに栄養不足になるわけではありません。
例えば、ビタミンCはブロッコリーやじゃがいも、いちご、キウイなどからも摂ることができます。
一つの食材だけに栄養が含まれているわけではありません。
反対に、「何でも食べる子」でも、お菓子やジュースが多く、食事全体のバランスが偏っているケースもあります。
薬剤師として身体のことを学んできたからこそ、「一つの食品」ではなく、「食生活全体」を見ることが大切だと感じています。
食べられない理由は、味だけではありません
食育スクールで子どもたちと接していると、「嫌い」の理由は本当にさまざまです。
味ではなく、食感が苦手な子。
匂いに敏感な子。
見た目だけで苦手意識を持つ子。
また、感覚の特性によって特定の食感や色、温度を受け入れにくい子もいます。
そんな子に「頑張って食べよう」と繰り返すだけでは、食事そのものがつらい時間になってしまうことがあります。
だから私は、まず「なぜ食べられないんだろう?」と理由を探ることから始めます。
子どもを変えようとする前に、子どもを理解する。
その姿勢が、親子の食卓を大きく変えてくれることがあります。
自分で料理すると食べられるのは、なぜ?
私が主宰する食育スクールでは、こんな場面を何度も見てきました。
「先生、ぼくピーマン嫌い。」
そう言っていた子が、自分で包丁を使って切り、自分で炒めたピーマンを一口食べて、
「これなら食べられる!」
と笑顔になるのです。
保護者の方からは、
「家では絶対に食べないのに、どうしてですか?」
と驚かれることも少なくありません。
実は、ここには子どもの心理が大きく関係しています。
人は、自分で関わったものに愛着を持ちやすいと言われています。
スーパーで野菜を選ぶ。
野菜を洗う。
包丁で切る。
混ぜる。
盛り付ける。
こうした「自分で関わった」という経験が、「食べてみようかな」という気持ちにつながります。
私は料理を教えたいのではありません。
料理を通して、「自分でやってみる」「自分で決める」という経験を積み重ねてほしいと思っています。
食べることは、子どもにとって毎日訪れる小さな挑戦です。
その挑戦を「やらされるもの」ではなく、「自分でやってみたい」と思えるようになることが、本当の意味での「食べる力」なのではないでしょうか。
「一口だけでも食べてみよう」は悪いこと?
「一口だけでも食べてみよう。」
この声かけをしたことがある方は多いと思います。
もちろん、この言葉が悪いわけではありません。
ただ、大切なのは、その一口が「命令」になっていないかということです。
子どもが自分で、
「今日は一口だけ挑戦してみようかな。」
と思うのと、
「食べなさい。」
と言われて口に入れるのとでは、経験の質が大きく違います。
私は高校受験のとき、母からこんな言葉をかけられました。
「最後まで悩んでいい。願書は、お母さんが走ってでも変更してきてあげるから。」
母は答えを教えませんでした。
私が自分で考え、自分で決めることを信じてくれたのです。
その経験は、今でも私の人生の支えになっています。
だから私は、子どもたちにも「自分で選ぶ経験」を大切にしたいと思っています。
「今日は匂いだけかいでみよう。」
「今日は触ってみよう。」
「今日は一口だけ挑戦してみよう。」
その一歩を自分で決める経験が、子どもの自信につながっていくと信じています。
今日からできる、家庭での5つの工夫
好き嫌いをなくそうと頑張る前に、ぜひ試していただきたいことがあります。
① 食べなくても、お皿にはのせてみる
見る、触る、匂いをかぐだけでも、食経験は積み重なります。
② 「なんで食べないの?」ではなく、「どんなところが苦手?」と聞いてみる
味なのか、食感なのか、匂いなのか。
理由が分かると、工夫できることが見つかるかもしれません。
③ 一緒に買い物をする
「今日はどのトマトにする?」
そんな小さな会話が、食への興味を育てます。
④ 小さなお手伝いをお願いする
レタスをちぎる。
混ぜる。
盛り付ける。
それだけでも十分です。
⑤ 食べられたことより、「挑戦したこと」をほめる
「食べられてえらいね。」
ではなく、
「挑戦してみようと思ったんだね。」
その声かけは、子どもの次の一歩につながります。
伝えたい食育
「好き嫌いをなくしましょう。」
私は、そんなふうには伝えません。
それよりも、
「食べることを好きでいてほしい。」
そう願っています。
食卓は、栄養を摂るだけの場所ではありません。
家族で笑い合ったり、学校であった出来事を話したり、季節を感じたりする、大切な時間です。
その時間が、
「怒られる場所」
ではなく、
「安心できる場所」
であってほしい。
そう思っています。
子どもは、安心できる場所だからこそ、新しいことに挑戦できます。
それは食べることだけではありません。
勉強も、友達との関わりも、将来の夢も同じです。
おわりに
薬剤師として身体の仕組みを学び、食育実践家として多くの親子と関わる中で、私がたどり着いた答えがあります。
それは、
「好き嫌いをなくすこと」がゴールではない。
ということです。
本当に育てたいのは、
「自分で考え、自分で選び、自分で挑戦してみようと思える力」。
その力は、毎日の食卓で少しずつ育まれていきます。
今日、もしお子さんが苦手な野菜を前にしていたら、
「食べなさい。」
ではなく、
「どんな味がすると思う?」
そんな一言から始めてみませんか。
その小さな会話が、子どもの「食べる力」だけでなく、「生きる力」を育てるきっかけになるかもしれません。
まとめ
私が食育の現場で大切にしているのは、「子どもを変えること」ではありません。
子どもを理解し、信じて待つことです。
好き嫌いがあっても大丈夫。
焦らなくても大丈夫。
子どもには、それぞれのペースがあります。
私たち大人にできるのは、その子らしい成長を信じ、安心して挑戦できる環境を整えること。
私は、そんな食卓が一つでも増えていくことを願っています。
もしも、お子様の「好き嫌い」に悩んでいたら・・・。直接お話しできる機会もございます^^
なにか解決の糸口となりますように。

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この記事を書いた人

石井 千賀子(いしい ちかこ)
食と学ぶと 代表/子どもの食育スクール「青空キッチン」大田区久が原校 主宰(2019年〜)/薬剤師
病院薬剤師としての経験と子育ての経験から、「食」を通して子どもの考える力・生きる力を育む活動をしている。延べ8,000名の子どもたちを指導し、生徒120名のスクールに成長。協会大賞など4賞を受賞。キッズコーチングの手法を学び、子どもの気持ちに寄り添う声かけをレッスンに取り入れている。AERA Woman スペシャルサポーター(第2期)。AERA、AERA with Kids、InRedなどの雑誌やJ:COMでも活動が紹介されている。