子どもの「ながら食べ」はなぜ食べすぎを招く?薬剤師・食育実践家が教えるスクリーンタイムの影響と楽しい食卓の作り方

「ごはんの時間なのに、テレビやYouTube、スマホからなかなか離れてくれない……。」
食育スクールや食育講座を開催していると、保護者の方から特に多くいただくお悩みのひとつです。
大人でも「今いいところだからキリが良いところまで見たい」と思うもの。子どもならなおさらですよね。とはいえ、食事をしながら画面を見る「ながら食べ」は、満腹中枢への刺激が遅れて食べすぎを招いたり、咀嚼回数が減ったりする原因になることがわかっています。
大切なのは、デジタル機器を無理やり取り上げて家庭内をギスギスさせることではなく、「画面に負けないくらい楽しい食卓をつくること」。
今回は、東京都大田区久が原で子どもの食育スクール『青空キッチン』を主宰する「食と学ぶと」代表・薬剤師の石井千賀子が、科学的な視点と子育て中の母としての実感を交えて、上手な付き合い方をお伝えします。
なぜ「ながら食べ」をすると食べすぎてしまうのか?
「気がついたらお皿が空っぽになっていた」「お腹が空いていないのにダラダラ口に運んでしまう」という経験は、大人にも身に覚えがあるのではないでしょうか。画面を見ながら食事をすると、脳と体のメカニズムによって食べすぎが起こりやすくなります。
画面に集中すると「満腹のサイン」を見落とす
人間は食事をすると、血糖値の上昇や胃の膨満感、ホルモンの分泌(レプチンなど)を感知し、脳の視床下部にある満腹中枢が「もう十分食べた」というサインを出します。このサインが脳に届くまでには食べ始めてからおよそ15〜20分程度かかるとされています。
しかし、視覚や意識が画面に奪われていると、味覚・嗅覚・噛んだときの刺激といった「今どれだけ食べたか」というフィードバックが脳へ適切に伝わりにくくなります。その結果、満腹感を感じる前に必要以上の量を胃袋へ詰め込んでしまうという事象が起きるようです。
スクリーンタイムと子どもの肥満・生活習慣の関連性
「スクリーンタイム(Screen Time)」とは、テレビ、スマートフォン、タブレット、ゲーム機などのディスプレイを見て過ごす総時間を指します。
近年、世界中の公衆衛生機関や小児科学会が、子どものスクリーンタイムの長さと健康リスクについて注意を呼びかけています。
国際的なガイドラインと健康リスク
世界保健機関(WHO)の運動・座位行動・睡眠に関するガイドラインでは、2〜4歳児の座った状態でのスクリーンタイムを「1日1時間未満(少ないほどよい)」と推奨しています。
スクリーンタイムが長くなると、運動不足になるだけでなく、画面を見ながら高カロリー・高脂質なスナック菓子や清涼飲料水を無意識に摂取する機会が増加し、将来的な肥満や小児生活習慣病のリスクを高めることが各種コホート研究で報告されています。
「よく噛んで食べる」ことが子どもの心身を育てる
「テレビを見ていても、口を動かして食べているから大丈夫」と思われがちですが、画面を見ながらの食事では「咀嚼の質」が大きく落ちてしまいます。
咀嚼がもたらす体へのメリット
厚生労働省が提唱する「噛ミング30(カミングサンマル・一口30回以上噛むこと)」にもあるように、しっかり噛んで食べることは子どもの発達に不可欠です。
- 肥満予防:脳の満腹中枢が刺激され、適切な食事量で満足できる。
- 消化・吸収の促進:唾液の分泌が活発になり、胃腸への負担を軽減する。
- 味覚の発達:食材本来の甘みや食感をしっかりと感じ取ることができる。
- 脳の活性化:顎を動かす刺激が脳の血流を促す。
- 参照情報:
画面に夢中になると、手が止まって時間がかかりすぎたり、逆にCMの合間に噛まずに急いで飲み込んだりしてしまいます。「どんな味?」「どんな食感?」を舌と口全体で味わうためにも、食事中の画面オフが効果的です。
デジタル機器は悪者ではない 目指すべきは「上手に付き合う力」
ここで誤解してほしくないのは、「スマホやテレビを完全な悪者にして排除すべき」という話ではないということです。
デジタルネイティブとして育つ子どもたちにとって、スマホやタブレット、インターネットはこれからの社会で生きていくための必須ツールです。大切なのは、排除することではなく、「小さいうちから自律的に切り替えるスキル(メディアリテラシー)」を育むことです。
- 画面を見る時間:思い切り楽しむ
- 食事の時間:家族や食べ物と向き合う
このメリハリを無理なく身につけるためには、「画面を禁止する罰」にするのではなく、「食卓のほうが楽しくて話したくなる」という環境を少しずつ整えていくのが近道です。
5. 今日からできる!画面から食卓へ気持ちを向ける5つの工夫
とはいえ、ではなにができるのか?完璧を目指す必要はありません。まずはご家庭で試しやすいものをひとつ選んでみてください。
① 食事中はスマホを視界から外す
テーブルの上に置くだけで、通知が気になり意識が持っていかれます。別の部屋やカバンの中にしまい、「ごはんの時間はスマホもお休み」を家族全員のルールにしてみましょう。
② 「消しなさい」ではなく「どこで区切る?」と自分で選ばせる
「今いいところだから消したくない!」という子どもの気持ちを一度受け止め、「この動画が終わったら」「あと何分経ったら」と、区切りを子ども自身に決めさせるとスムーズに切り替えやすくなります。少し早めに、「あと〇分でごはんだよ」と伝えておくのも一つの方法です。
③ 見ていた番組を食卓の会話テーマにする
画面を消したあと、「さっきの番組、どこが一番面白かった?」と話題を提供してみます。テレビの面白さを家族のコミュニケーションに昇華させることで、子どもの不満を和らげることができます。
④ 「ちゃんと噛んで」ではなく「どんな音がする?」と問いかける
「にんじん、どんな音がした?ボリボリ?」「シャキシャキの音を聞かせて!」とゲーム感覚で問いかけると、子どもは自然と咀嚼に集中し、五感を使って食事を楽しむようになります。
⑤ 大人も「ながら食べ」をお休みする
子どもは大人の背中を非常によく見ています。私も気を付けなくては!と思うことですが、「お母さん(お父さん)もスマホを置いて、一緒にお話ししよう」と行動で見せることが、どんな注意の言葉よりも心に届きます。
おわりに
子どもの成長期において、食事は単なる栄養補給の場ではなく、コミュニケーション力や情緒の安定を育む貴重なひとときです。
画面から目を離し、今日あったことや料理の感想を言葉にして交わし合う。そんなあたたかい食卓の積み重ねが、子どもの心と体を健やかに育てていきます。
もしお子さんの偏食や食欲、体重の推移などで気になることがありましたら、一人で悩まずに、小児科医やかかりつけ薬剤師、地域の食育スクールへ気軽にご相談くださいね。
よくある質問
Q. 子どもの「ながら食べ」は、すぐにやめさせたほうがいいですか?
A. 無理にすべてをやめさせなくても大丈夫です。食事中は画面をお休みする時間をつくりながら、番組の話題を会話で楽しむなど、上手に付き合う方法を少しずつ身につけていくことを大切にしています。
Q. スマホやテレビを見ながら食べると、なぜ食べすぎるのですか?
A. 食べることに気持ちが向かず、どれだけ食べたかに気づきにくくなるためと考えられています。アメリカとカナダの研究では、スクリーンタイムが長い子どもは1年後に過食や肥満になる危険性が高いことが報告されています。
Q. 青空キッチンはどこで、何歳から通えますか?
A. 東京都大田区の青空キッチン大田区久が原校・大森校で開講しており、3歳から小学6年生までの子どもたちが通っています。体験レッスンも随時受け付けていますので、お気軽にどうぞ。
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食と学ぶとでは、延べ8,000名の子どもたちを指導してきた実績と薬剤師としての医療の視点をいかし、食育セミナー・親子イベントの企画運営、講演、コラムの執筆・監修を承っています。
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この記事を書いた人

石井 千賀子(いしい ちかこ)
食と学ぶと 代表/子どもの食育スクール「青空キッチン」大田区久が原校 主宰(2019年〜)/薬剤師
病院薬剤師としての経験と子育ての経験から、「食」を通して子どもの考える力・生きる力を育む活動をしている。延べ8,000名の子どもたちを指導し、生徒120名のスクールに成長。協会大賞など4賞を受賞。キッズコーチングの手法を学び、子どもの気持ちに寄り添う声かけをレッスンに取り入れている。AERA Woman スペシャルサポーター(第2期)。AERA、AERA with Kids、InRedなどの雑誌やJ:COMでも活動が紹介されている。