「料理には興味はありそうなのですが、全然食べられないのです。それでも通えますか?」

以前、体験レッスンのお問い合わせで、あるお母さまからいただいたご相談です。食べられるものが極端に少ない。食材にも触れない。子どもの偏食に悩むお母さん・お父さんから、食育スクールでよく伺うお悩みの一つです。

その気持ちはよく分かります。毎日のごはんのたびに「今日も食べてくれなかった」と感じるのは、本当にしんどいですよね。

でも、子どもの偏食は、すぐに「食べさせる」ことだけがゴールではありません。触る、切る、お皿に移す。そんな小さな一歩を重ねるうちに、子どもは少しずつ「食」に前向きになっていきます。今日は、食材に触れることも難しかった女の子が、「おいしい」と言えるようになるまでのお話をご紹介します。

こんにちは。東京都大田区久が原で子どもの食育スクール「青空キッチン」を主宰している、食と学ぶと 代表・薬剤師の石井千賀子です。食欲の秋と言われる季節ですが、「うちの子は秋になっても食べる量も種類も変わらない……」と感じている方にも、読んでいただけたらうれしいです。

この記事のポイント
・子どもが食材に触れない、知らないものを食べないのは「わがまま」ではなく、自分を守るための自然な反応でもあると考えられています。
・「1つだけ切る」「1つだけお皿に移す」のように、小さな段階に分けて「できた」を重ねることが、偏食の子の自信につながります。
・食べられる種類の多さよりも、子どもが食に前向きになれることを大切にしたいと、私は考えています。

「食材に触れない」のは、わがままではありません

「どうしてこんなに食べられないの?」そう思ったことはありませんか。

今回ご紹介する女の子が、青空キッチンに来てくれたときに食べられていたのは、白米、食パン、チョコ、そして麺。麺は、具の入っていない麺だけでした。

忘れもしません。体験レッスン前にお母さまから偏食の相談を受け、サンドイッチならば体験しやすいのでは?と、サンドイッチのレッスンでの体験をお勧めしたときのこと。

「すみません、パンは食べるのですが、何か挟んであったりしたら食べないと思います」

きっと「こんなこと言って大丈夫だろうか」そう思われたと思いますが、わが子のためにお話してくれたこと
本当にありがたかったです。

さて、そんな彼女が体験に来て、エプロンを付けていざ調理台へ。すると、食べられないだけではありません。生のお肉や魚介、にんじんや葉物の野菜は、触ることすら難しい状態でした。

大人から見ると「触るくらい、いいのに」と思うかもしれません。でも、子どもにとって、見たことのない手触りや、においのある食材は、それだけで大きなハードルになるのです。

偏食の子が、知らない食べ物をこわがるのはなぜ?

初めての食べ物を警戒するのは、子どもが自分の身を守るための、自然な反応だと言われています。

人は昔から、知らないものを口に入れるときに慎重になることで、体に合わないものや危ないものを避けてきました。特に幼児期の子どもは、初めて見る食べ物を嫌がりやすい時期があることが知られています。

また、中身がよく見えない料理や、いくつもの食材が混ざっている料理は、「何が入っているのか分からない」という不安を感じやすくなります。

一方で、何度も見たり、触ったり、においをかいだりするうちに、知らなかった食べ物が「知っている食べ物」に変わっていくと言われています。

だから私は、偏食の子にこそ、食べる前の「見る・触る・かぐ」の体験を大切にしています。いきなり口に入れるのではなく、食材と仲良くなる時間をつくることが、最初の一歩になると感じているのです。

「全然食べられない」けれど、料理には興味があった

冒頭の女の子は結局、自分で作ったサンドイッチは食べることはできませんでした。

それでもお母さまは、青空キッチンの方針や想いに共感してくださり、入会を決めてくださいました。そこから、毎月2回のレッスンが始まりました。

食べられなかった体験の日に、「それでも通わせてみよう」と決めるのは、勇気のいることだったと思います。そのお母さまの決断に、心から感謝しています。

「1つだけ」から始めるスモールステップ

スモールステップとは、大きな目標を小さな段階に分けて、一つずつ「できた」を積み重ねていく進め方のことです。

女の子との最初の一歩は、私の手に、女の子が自分の手を重ねるところからでした。私が包丁を動かし、女の子は手を重ねたまま「切っている感覚」を味わいます。

そこから、少しずつ段階を進めていきました。

1つだけ切ってみる。
1つだけお皿に移してみる。
1つだけフライパンに入れてみる。
1つだけ食べてみる。

最後の「1つだけ食べてみる」は、女の子にとってかなりハードルの高い段階でした。だからこそ、その手前の「切る」「移す」「入れる」を、何度も繰り返しました。

人は、自分で関わったものに愛着を持ちやすいと言われています。自分で切った食材、自分でフライパンに入れた食材は、もう「知らない食べ物」ではありません。小さな関わりの一つひとつが、食材との距離を縮めてくれます。

うれしかったのは、女の子が「行きたくない」と言うことはなかったようで、ずっと通い続けてくれたことです。食べられない日があっても、レッスンそのものは楽しい時間になっていたのだと感じています。

「サバの味噌煮、美味しい~!」と言えた日

続けるうちに、女の子は少しずつ生のお肉や魚介に触れられるようになりました。

鯵の骨抜き。海老の殻むき。背わた取り。包丁の使い方も、炒める作業も、どんどん上手になっていきました。触ることすら難しかった食材の下処理を、自分の手でできるようになったのです。

そして、卒園を前にしたある日のレッスン。女の子が、こう言ってくれました。

「サバの味噌煮、美味しい~!もっとたべたい~!」

この言葉は、私にとって本当にうれしいものでした。小学校では「給食」という新しい環境が待っています。その前に、食べられるものが一つ増えたことは、女の子にとって大きな一歩だったと思います。

もちろん、食べられるものがたくさん増えたわけではありません。それでも私は、女の子が「食」に前向きでいられたことが、何よりうれしい変化だと感じています。

「食べられる種類」より大切なことは?

子どもの偏食で大切にしたいのは、食べられる種類の多さよりも、食に前向きな気持ちが育つことです。

偏食が続くと、「栄養は足りているかな」「量は大丈夫かな」と心配になりますよね。薬剤師としても、母としても、その気持ちはよく分かります。栄養バランスや量は、もちろん大切です。

でも、大人になって、食べられるものが数種類しかないという人は、ほとんどいないのではないでしょうか。子どもの好みや食べられるものは、成長とともに変わっていきます。

だから私は、子どものうちに、苦しくない、楽しい食の体験を重ねてほしいと願っています。楽しい体験が増えるほど、食の楽しみも、子どもの世界も広がっていきます。栄養バランスや量だけでなく、「食」を広い視点で見た食育が大切だと感じています。

そして、今回の女の子の変化は、ご両親のおかげでもあります。「今は食べられなくても、いつか必ず『美味しいね』と食べる日が来る」と信じて、通わせ続けてくださいました。焦らずに見守る大人の存在が、子どもの一歩を支えてくれるのだと思います。

今日からできる、家庭での5つの工夫

偏食の子に、ご家庭でできることは、実は小さなことばかりです。全部やらなくても大丈夫。1つ試してみるだけでも十分です。

① 食べなくても、食材を「見る・触る」機会をつくってみる
買ってきた野菜を袋から出すとき、そばで見てもらうだけでも大丈夫です。「この玉ねぎ、どんなにおいがするかな?」と、食べること以外の声かけをしてみてくださいね。

② 「1つだけ」のお手伝いをお願いしてみる
ミニトマトを1つだけお皿にのせる。レタスを1枚だけちぎる。最初はそれで十分です。「なんで食べないの?」ではなく、「1つだけ、お皿に並べてくれる?」と頼んでみてください。

③ 苦手な理由を、やさしく聞いてみる
においなのか、手触りなのか、見た目なのか。理由が分かると、次の工夫が見えてきます。「どんなところが苦手?」「初めての味はドキドキするよね。」と、気持ちを受け止める言葉を添えてみてくださいね。

④ 中身が見える料理にしてみる
「何が入っているか分からない」が不安な子には、具を混ぜずに分けて盛りつけてみるのも一つの方法です。「これはにんじん、これはお肉だよ」と、一緒に確かめてから食べられると安心しやすくなります。

⑤ 食べられたことより、関われたことをほめてみる
「食べられてえらいね。」ではなく、「自分で切ってみたんだね。」「お皿に移せたね。」と、挑戦したことを言葉にしてみてください。その一言が、次の一歩への自信になります。

おわりに

薬剤師として、そして食育実践家として、たくさんの子どもたちと一緒に料理をしてきた中で、私が大切にしていることがあります。

大切にしているのは、子どもの「今」を責めずに、その子のペースで「できた」を重ねていくことです。

食材に触れなかった女の子は、手を重ねて切ることから始めて、鯵の骨を抜き、海老の殻をむき、「サバの味噌煮、美味しい~!」と言えるようになりました。その道のりは、小さな一歩の繰り返しでした。でも、小さな「できた」の積み重ねが、女の子の中に「やってみよう」という気持ちを育ててくれたのだと思います。

偏食の悩みは、ひとりで抱えると苦しくなります。食べることだけをゴールにせず、食を楽しむ体験を一緒に重ねていく。その中で、子どもは自分で考え、挑戦する力を少しずつ身につけていくと信じています。

まとめ

子どもの偏食は、わがままではなく、知らないものへの不安から生まれることが少なくありません。見る、触る、1つだけ切ってみる。そんな小さな一歩の積み重ねが、子どもを食に前向きにしてくれます。今は食べられなくても大丈夫。焦らなくても大丈夫です。青空キッチン大田区久が原校でも、一人ひとりのペースを大切にしながら、子どもたちと「食」の楽しさを分かち合っています。

よくある質問

Q. 偏食で食材にも触れない子でも、料理の習い事に通えますか?
A. 通えます。青空キッチンでは、食べることだけをゴールにせず、手を重ねて切る、1つだけお皿に移すなど、その子のペースに合わせて料理に関わるところから進めています。

Q. 子どもの偏食で栄養が心配です。どう考えたらいいですか?
A. 栄養バランスや量はもちろん大切ですが、まずは食に前向きになれる楽しい体験を重ねることも大切だと考えています。体調や成長で気になることがあれば、ひとりで抱えずに、かかりつけの医師や薬剤師に気軽に相談してくださいね。

Q. 青空キッチンはどこで、何歳から通えますか?
A. 東京都大田区の青空キッチン大田区久が原校・大森校で開講しており、3歳から小学6年生までの子どもたちが通っています。体験レッスンも随時受け付けていますので、お気軽にどうぞ。


青空キッチンで、お子さまの「考える力」を育てませんか

「うちの子も、食べることを楽しめるようになってほしい」。そんな方は、まずは体験レッスンへ。青空キッチン大田区久が原校・大森校では、幼児から小学生までの子どもたちが、「食」を教材に考える力・生きる力を育んでいます。体験レッスンを随時受け付けています。

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食と学ぶとでは、延べ8,000名の子どもたちを指導してきた実績と薬剤師としての医療の視点をいかし、食育セミナー・親子イベントの企画運営、講演、コラムの執筆・監修を承っています。

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この記事を書いた人

石井 千賀子(いしい ちかこ)
食と学ぶと 代表/子どもの食育スクール「青空キッチン」大田区久が原校 主宰(2019年〜)/薬剤師

病院薬剤師としての経験と子育ての経験から、「食」を通して子どもの考える力・生きる力を育む活動をしている。延べ8,000名の子どもたちを指導し、生徒120名のスクールに成長。協会大賞など4賞を受賞。キッズコーチングの手法を学び、子どもの気持ちに寄り添う声かけをレッスンに取り入れている。AERA Woman スペシャルサポーター(第2期)。AERA、AERA with Kids、InRedなどの雑誌やJ:COMでも活動が紹介されている。